ダメ太郎スマイル、深海日記

クワインを読むんだ

哲学史について

哲学史を勉強する意義は、ある意味合いで、判例をまなぶことである言える。しかし、哲学科や哲学専攻に所属してなければ、あるいは、大学に所属してないのであれば、ある程度哲学専攻の人間と共通理解をつくれるほどの理解を獲得しにくいだろうから、いくらか文献をあげて、レベルわけしようとおもう。この記事は、ぼくが院試をうける後輩への助言のもとにもするので、暫定的な内容にとどめる。

さて、哲学史を学び始めるとき、ふたつの視点を導入できる。ひとつに、個々別々の哲学にかんする簡潔ないしは適切な共通した説明の歴史的一覧。もうひとつは、特定の時期を焦点化し、それぞれの特徴によって、歴史的に整序する視点。いまの日本の出版状況をかんがみれば、この先、『哲学の歴史』にまさる網羅的な本は出版されないかもしれない。しかしながら、この本はあまりにも苦痛だ。読み通したくないし、あなたが「スーツ」にでてくるマイクなら、手始めに読む価値がある。けれども、大抵の人類は、一度見ただけものを記憶できないばかりか、理解もできないので、グレードダウンさせてみよう。
総覧的視点からは、『西洋哲学史』(岩崎、有斐閣)が教科書っぽく、ポケットにぶちこめる。また、貫成人の『図説・標準 哲学史』もある。歴史整序的には、伊藤邦武の新書や、『西洋思想のあゆみ』(岩田編、有斐閣)があるかもしれない。しかし、前者はかれ独特の螺旋的な歴史観が示されていて、後者は、編著であるために、それぞれの項目での統一感はあっても、全体的にはすこし見えにくく、薄いために情報量の不足が否めない。とはいえ、これらの本は本屋やAmazonで手軽に購入できるし、きっかけとして悪くない。つまり、内容は押さえられなくても、理解しにくくても、覚えるべきことばが文中に生起しており、これからの学習(哲学史のも、哲学のも)のコストを下げる。この段階での特徴は、全体的な視点に気を配ることが多く、適切とは言えなくても、手引きになるということだ。
薄めの本を諦めて、本屋やAmazonに頼るのも止めれば、もうすこし道が開けてくる。この段階での難点は、一冊で通史とはいかなくなる点である。総覧的視点でも、歴史整序的視点でも、話題が限定される。たとえば、リーゼンブーバーをとってみても、せいぜい中世までだ。この本は、全段階の本と違って、取り上げられている哲学者のテキストが多く引用されはじめる。こうした文言から文への移項をレベルアップと見なしていいとおもう。ここら辺になってくると、たくさん本が出てくる(ジルソンとかパスモアとか、九鬼周造とかあげればきりがない)けれども、さいしょの『哲学の歴史』にふりもどってもいいかもしれない(しかもこいつは本屋で買いやすい)。
つぎの段階では、まえのレベルでそれぞれいろいろな場面で、自分のもっている印象の強弱がばらついているだろうから、均してみよう。そうすると、個別史or編著から、通史and単著というレベルになる。たぶん、ヒルシュベルガーとコプルストンを真っ先にあげとけばそんなに怒られないはず。ラッセルというダークホースもいるが、かれによって独断のまどろみから覚めたら、あなたはきっとまた寝る。かれらの本は新しくないので、個別的なポイントでは、前段階の本のほうがただしいことを書いている。ただ、単著であり通史的である点で、ひとりの著者により最低限にそれぞれの緊密さを与えられているし、通史にする必要上、最低限の情報量が満載されている。だから、いろいろ詰め込みまくって イッパイイッパイになってるころに読めば、第一段階での全体的な枠組みをアップデートできるし、第二段階での情報量や焦点的な枠組みを整序しやすくなる。気が向いたら、第二段階に戻るなり、興味のある哲学者の原著や専門書に向かえばいい。
ここまできたら、哲学史で聞いたことない哲学者や、著作、術語はあまりなくなるし、ある程度自信もつくはず。なので、さいごにどうでもいいトリビアとして、ハルトマンをあげておこう。ここにあげてないけど、日本語で読める哲学書で、通史的で単著でないものはいくらかあり、すこし古めの本になればいわゆる新カント派の影響を見てとれる。たとえば、岩崎の普遍論争の説明など。こうした、新カント派っぽいこと書いてる本がハルトマンだ。しかも、ドイツ語も(ありえないほど)難しくなく(邦訳もある)、哲学史については100頁をくらいなので、ド変態でなくても夏休みなどの長期休暇をつかえば、それなりに読める。
異論は多いと思うのだけど、ここらへんの内容にかんして、哲学専攻の人間とはなして、あ? みたいな顔をされずはなしができていれば、哲学や哲学史にかんする期待されてる程度の理解があると見なされると思う(あと院試的にも困らない)。

追記:
・有名な哲学史バイアスとして、ヒルシュベルガーものべているが、アリストテレスに中世哲学を読み込むとかがある。ヒルシュベルガーがやってるものとしては、初期ギリシア哲学にアリストテレスを読み込むなどがある。そういったものは、比較的新しく、評価が上がりつつある研究書で指摘してあるので、先生や研究者に聞くとよい
・とくに包括的な理解を求めてないなら、第二段階までにして、あとはトピック的な教科書とかリーディングスでも読めばいい
・最終的には、Five milestones of empiricismのように、五段階にわけてもうすこし細かく分類しようと思うし、それぞれの本の特性と学習者のレベルにかんするパラメータを組み合わせて汎用性が高くしたい